放射温度計の使い方|事前設定と正確な測定方法
放射温度計は、赤外線エネルギーを利用して物体の温度を測定しますが、正確な測定を行うためには事前の設定が重要です。特に「放射率」の設定は、測定の精度に直結します。ここでは、CALEX製の放射温度計を参考にした設定手順や確認方法について詳しく解説します。
そもそも設定には何を使う?
本体ボタン操作か、PC設定か
製品型式ごとに設定方法は異なります。大きく分けて2通りの方法があり、本体ボタンや本体画面を操作して各種設定を行う製品と、PC上で操作する専用ソフトウェアを用いて設定を行う製品に分かれます。製品毎に設定が異なりますので、あらかじめ確認する必要があります。
1. 放射温度計の事前設定(放射率)
放射温度計で温度を正確に安定して測定するうえで、「放射率の設定」が重要です。
放射率とは?
放射率(Emissivity)は、物体が放射する赤外線エネルギーの割合を示す値で、0から1の範囲で表されます。放射率が1に近いほど、赤外線を多く放射する性質があります(例:黒体)。一方、金属や鏡面のような反射率の高い物体は、放射率が低くなります。
材質 | 放射率(目安) |
黒体(理想的放射体) | 1.00 |
酸化アルミニウム | 0.90–0.95 |
ガラス | 0.85–0.95 |
ステンレス | 0.30–0.40 |
鏡面仕上げ金属 | 0.05–0.10 |
正しい放射率を設定しないと、測定結果に大きな誤差が生じるため、測定対象物の材質や表面状態に応じた放射率の設定が不可欠です。
放射率の設定手順
測定対象物の材質を確認
放射温度計のマニュアルやメーカーの放射率表を参照し、対象物に対応する放射率を確認します。
放射率を温度計に入力
放射温度計には、放射率を設定する機能が搭載されています。次のような手順で設定を行います。 - PC設定の場合(ExTemp-Mini、ExTemp(汎用防爆)シリーズなど)
PCに接続し、設定ツールを起動
「放射率設定モード」に切り替え、放射率を小数点以下の数値で入力(例:ガラスなら0.9)
設定を保存して反映
- アンプ設定の場合(PyroMiniシリーズなど)
設定ボタンを押し、「放射率設定モード」に切り替える
放射率を小数点以下の数値で入力(例:ガラスなら0.9)
設定を保存して反映
測定対象に合わせて微調整実際の測定値と対象物の既知の温度が異なる場合は、放射率を微調整します。
表面に応じた特別な対応が必要な場合
低放射率の物体
反射が強い金属のような低放射率の物体を測定する場合、表面に黒い塗料やテープを貼って放射率を高める工夫をすることもあります。これにより、設定の簡便化と精度向上が図れます。
塗装やコーティングされた表面
塗装やコーティングは放射率を変化させます。対象物の実際の表面材質を確認して、適切な放射率を設定してください。
2. 出力温度範囲を設定
放射温度計の出力温度範囲を設定することで、測定した温度データが適切なスケールで処理されるようになります。
目的
出力温度範囲を設定すると、計測対象が想定する温度範囲外で異常値が発生した場合に警告を出すことが可能になります。また、過剰なデータ処理を防ぎ、測定精度を向上させます。
設定方法
測定対象の温度範囲を確認します(例:-50℃~500℃)。
放射温度計の設定画面で、「出力温度範囲」項目を選択。
想定する最小温度と最大温度を入力し、保存します。
応用例
食品業界では、冷凍食品の表面温度(-30℃~0℃)に焦点を当てる場合、測定範囲を狭めて温度異常を検出しやすくする設定が役立ちます。
3. 出力処理の設定
測定出力の平均値を設定します。CALEX社の放射温度計には、ピーク(最大値)ホールドおよびバレー(最小値)ホールドという放射するセンサーの出力処理設定機能が搭載されています。この機能は、センサーが対象物を継続的に測定できない場合に役立ちます。
出力処理の設定を正しく行うことで、以下のようなケースに対応します。
コンベア上の物体の測定
測定対象物の間に隙間がある場合、センサーが対象物を一時的に見失います。
液体容器内の測定
液体の表面を測定しているとき、回転する撹拌器が視界を妨げることがあります。
こうした状況では、出力処理設定なしでは正確な測定が難しく、アラームや制御システムが正しい値を認識できなくなります。ピーク・バレーホールド機能は、この問題を解決し、安定した測定値を出力します。
4. データロギングの設定
データロギング機能を活用すると、測定データを記録し、後で分析や監査に利用できます。弊社が取り扱うCALEX社製品はロギング機能が搭載されていることも特徴の一つです。
目的長時間の温度モニタリングやトラブルシューティングのために、測定データを蓄積します。
設定内容
記録間隔の設定
データを記録する間隔を選択(例:1秒、1分、10分)。短い間隔は詳細な記録に適し、長い間隔はストレージ容量を節約します。
保存先の指定
まとめ
放射温度計の設定は、用途や測定環境に合わせて細かく調整することで、正確性と効率を最大化できます。特に放射率や出力処理の設定は、測定結果の信頼性に直結する重要な要素です。また、データロギング機能を活用することで、温度変化を追跡し、プロセスの改善や異常検知に役立てることができます。各設定項目を適切に調整し、放射温度計を最大限に活用しましょう。
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